syuun の不思議な少年時代 その30 Episode 1
               その8

【幼稚園の中のもう一つの幼稚園・年中時代3】

そんなリンゴ狩り。
実は、知らされていなくて行かなかった人が沢山いた。
あとでリンゴ狩りの話しをしたら知らなかったという人達ばかりだった。
K園長は言う
「リンゴ狩りは、寄付金を納めた人達だけの個人的な遠足です。」
こんなことも問題になって、父母から抗議が出て、翌年からは園児全員がリンゴ狩りに行くことになった。
いずれにせよこのあと、母は相当腹立たしかったらしく、11月、12月分の寄付金は払わなかった。
その寄付金。
寄付金というのは規定はなくて暗黙の了解だった。
だから当然その額は、決まっていない。
入園当初に月謝を払った後に、会計担当の先生に「あと寄付金を納めてください」と言われたのだか、その寄付金を母は知らなくて金を持ってこなかった。
寄付金‥‥金額はというと「寄付金だから幾らでも構いません」とその先生は言う。
それでは分からないから「ふつう幾らぐらい払っているのですか?」と聞いたところ‥‥
困ったような顔をしながら「月謝の1ヶ月分の人が多いです」というものの、「(月謝の)半分の人もいます」という。
「寄付金ですので、払える金額で結構ですし、払える時で結構です」とも言っていた。
実際、その後色々な人に聞いて見たところほとんどの人達が「月謝の半分」だったようだ。

秋の深まる11月。
突然今までの単なる童謡からクリスマスソングに変わった。
毎日ジングルベルである。
そして、良く分からない聖書の話し。
そのうちに何やら年長組の混じって「劇のまねごと」に参加する様になった。
参加するといても、年長組が何かやるのを見ているようなその他大勢、台詞一言である。
その劇とは、クリスマスパーティに向けてのキリスト誕生の劇であることはその後分かった。
昼食の前に「天にまします我らが神よ‥‥」「アーメン」などとお祈りをしてから食事をすることさえ何だか分かりはしない時である。
ましてキリストというのは誰というのが当時の感覚であった。

そのクリスマスの観劇のリハーサルは、通常の園の授業を全く無視して延々と毎日続いた。
要するに、先生は観劇の準備に余念がなかった。
そして劇では、その背景や被り物などは既に作られていて、園児はその中に単に入れられるだけのことである。
今でこそ12月24日はクリスマスイブとして誰も知らない事はないのだが、昭和31年の冬ことである。
当然園児としては何も知らない。
そんなときには物知り顔の園児というのが何時もいて、キリストの馬屋での誕生秘話をとうとうと話してくれた。
しかし、それが何なのかは当時は知るよしもなかった。
12月中旬になると突然観劇のリハーサルの見学もその劇中に入ることもなくなり、園舎の教室で幾人かと延々と自習する日々か続く。
そしてリハーサルが済むと何時もの悪ガキが戻ってくると共に閉園時間が近づく。
そしてその24日が近づくと突然クリスマス会の観劇のリハーサルがなくなった。
別の日にする事になったのか、行われなくなったのかははっきりしない。
それで講堂を覗いてみると何やら雑然とした趣になっている。
そして、幼稚園の終業式というのは12月23日であった。

講堂は、既にクリスマス会の飾り付けは終え最終点検を先生がしているところである。
それでクリスマス会はどうなっているのかと先生に聞くと、「聞いてきます」と主任の先生に聞きに行くと午後の1時だったか2時だったかの時間であった。

12月24日の寒い一日。
午後の1時、2時ではおかしいと思って母に言うとそれなら12時頃に行ったらという。
それでも遅すぎると11時20分頃に幼稚園につくと講堂の椅子の半分はガラガラでクリスマス会は終盤にさしかかっている。
そしてなぜか休憩に入って、ざわざわとし始めているではないか。
良く見知っている悪ガキの後ろに行くと、
「おう、こっちへ来いよ」
「ずいぶん遅いじゃねーか、もう終わりだぜ」
という。
その悪ガキは、フサの付いた銀色の三角の帽子を被って、靴の形をした小さな菓子を持っている。
しばらくすると、先生が
「お菓子をもらっていない人はいませんか」という。
悪ガキ
「この子がもらっていません」と言うのだが、先生は嫌な顔をして無視する。
「なんで休憩に入ったの?」と悪ガキに聞くと‥‥
悪ガキ
「あ!、それは付属の卒業生が来るのが11時半なんだよ」
「なぜ?」
「付属(群馬大学学芸学部附属小学校)は今日が終業式なんだ」
そんなふうに話している間に、ゾロゾロと冬なのに半ズボンの制服を着た小学生が集まって一杯になってしまった。
それを見計らって、クリスマス会が再開されて園児の名前が呼ばれる。
園児は、呼ばれると前に出で行って今までもらった小さな「銀の靴の菓子」ではなく、より大きな「靴」か又は何かのものをもらう。
その悪ガキも呼ばれて、一抱えもある特別大きな「菓子の入った銀の靴」をもらってきた。
それから、後ろの小学生もゾロゾロと前に呼ばれて菓子のプレゼントをもらいそのまま帰ってしまう児童もいた。
それで終わる頃にはだんだん閑散として来て12時には終了。
帰り際に悪ガキは
「こちらがあるから、これはやるよ」
「見た目だけだからね‥」と
小さな「靴型の菓子の詰まった網」を寄こした。
うちへ帰ってこの「靴型の菓子」を開けてみると駄菓子屋で買うような「あめ玉2-3個」と「チョコ味のビスケット菓子」という有様。
それは確かに見た目だけのクリスマスプレゼントだった。

家に帰って、母に事情は話すと良く理解したようで
「来年はクリスマス会に参加出来るようにします」と言い切った。

昭和32年の12月。
前年のクリスマス会と同じようにリハーサルが始まり、役どころとしては一言だが前年に見たキリスト誕生秘話の部分ではない。
何を演じていたのかは今でも分かっていない。
しかし、前年のように「園舎の教室で幾人かと延々と自習する」という事はなくなった。
それでも数人自習していたのだが、昨年のことを園児に伝えると翌日から一緒に劇に加わるようになって、自習している園児はいなくなった。
昭和32年12月24日のクリスマス会。
小生が来る時間は10時だった。
それは、観劇に出る時間だと教えられたのだが‥‥

それで当日10時に行くと当然クリスマス会は始まっている。
既に、大きなクリスマスプレゼントの包みがあちこちに配られているのが見て取れた。
自分たちが座る席はガラガラで、まだ後から園児が来る様子だった。

しばらくすると自分の出番が廻ってきて壇上から降りてくると前年より多少大きい「銀の靴の菓子」をもらった。

そして、例の悪ガキに会うとこう言う
「僕は9時半だった」と昨年より多少小さい菓子の袋を上げて見せた。
クリスマス会は、9時から始まっていたらしかった。

何のことはない、寄付によって「クリスマスプレゼント」をもらう時間が異なり、もらう大きさも違うと言うわけだ。
「付属の卒業生は?」と悪ガキに聞くと
「今年から終業式が23日になったんだ」
「よく見ろ、後ろにいるだろ」
と言うような事を話しているうちに終了してしまった。
そして時間はなんと11時だったのである。



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